青森地方裁判所 昭和25年(行モ)1号 決定
申立人等代理人は「当裁判所昭和二五年(行)第四号指名推選無効確認等請求事件の判決が確定するまで青森県議会の別紙第一表記載の各常任委員会の委員及び正副委員長の職務執行はこれを停止し同第二表記載の各常任委員会の委員及び正副委員長にこれをさせる」との決定を求める旨申立てその理由として陳述した事実の要旨は各申立人及び各被申立人代表者は何れも青森県議会議員であり櫻田清芽は同議長であるところ、昭和二四年一二月二三日同議長が総議員四五名(定員四七名)中三一名を糾合して政友クラブを結成し、申立人等残一四名と相対立するに至つた。ところで同年一二月二三日政友クラブ所属議員二九名(内議長一名)その反対派議員一一名計四〇名出席の下に開かれた青森県議会常例会において政友クラブの発議に係る「青森県議会常任委員会及び特別委員会条例中改正条例の件」が上提されたがその要領は従前の「民生、衛生、労働」を「民生」「衛生」「労働」の三部門に「経済、商工、水産」を「経済」「商工」「水産」の三部門に各分離独立させ又従前の一部門委員「二〇人以内」を「一〇人以内」に縮減し「教育」を「文教」に改称するにあり、従前の常任委員会制度を抜本塞源的に変革する重大な議案であり数多の疑問を包蔵し愼重に審議を尽さなければ、到底妥当な表決に達することができない難件であつた。然るに政友クラブ所属議員松尾節三が提案理由の説明に衝つたが所説瞹眛少しも要領を得ず、疑義が百出したそこで反対派柴田議員が議長の許可を得て提案者に釈明を求めたところ政友クラブ所属議員鈴木禮は議長の許可を得て「答弁無用。討論打切。即時採決」の動議を提出、議長は議場騷然裡に採択の可否を議員の起立に問い出席議員の過半数を擁する政友クラブ所属議員の賛成を得てこれを採択し、更に議場混乱裡に前記改正条例案の賛否を議員の起立に問い前同様政友クラブ所属議員の賛成を得てこゝに議案が可決成立した。そこで反対派岩淵、外二議員が櫻田議長不信任案を提出したところ仮議長政友クラブ所属議員松尾節三は発議議員に碌々提案理由をすら説明させず直ちに賛否を議員の起立に問い政友クラブ所属議員の反対により議案が否決された。次いで同議長は予て反対派議員申立人等一一名が議長宛に書面で提出しておいた緊急質問通告に一顧だも与えず、「新条例に基く委員の選任を議長の指名推選でしたいから賛成されたい」と議場に諮り反対派議員の異議に遭うや賛否を議員の起立に問い政友クラブ所属議員の賛成を得て該案が可決された。そこで議長は直ちに別紙第一表記載のように委員及び正副委員長を読上げ指名した。次いで同議長は「新条例に基く正副委員長の選任を議長の指名推選でしたいから賛成されたい」と議場に諮り、これ又反対派議員の異議に遭うや賛否を議員の起立に問い政友クラブ所属議員の賛成を得て、該案が可決された。そこで議長は直ちに別紙第一表記載のように正副委員長を読上げ指名した。併し乍ら叙上議決及び指名推選には次のような瑕疵欠缺がある。
一、凡そ条例は告示を俟つて始めて効力を発生するところ本件指名推選方法採用決議及び指名推選は新条例の告示及び施行前に為されたものであるから、法律上当然無効でありこの無効はその後の告示により当初に遡つて有効となるものではない。
二、地方自治法第一〇九条第三項によれば「常任委員会は普通地方公共団体の事務に関する部門ごとにこれを設けることができる」に過ぎないから、まだ部門別に分割されていない「商工、水産」につき「商工常任委員会」「水産常任委員会」を設ける旨の本件条例改正部分は法律上当然無効であり従つて該部分に基く「商工常任委員会」「水産常任委員会」の委員及び正副委員長の指名推選行為も亦当然無効である。
三、同法第一〇九条第二項によれば「常任委員は会期の始めに議会において選任し議員の任期中存在する」から本件条例中別紙第二表記載の既存委員及び正副委員長の地位を剥奪又は転換する部分は法律上当然無効である。従つて該部分に基く本件指名推選方法採用決議及び指名推選行為も亦法律上当然無効である。
四、仮に一、二、三の諸点が何れも理由がないとしても凡そ議会における委員及び正副委員長の選任につき苟も指名推選方法を用いるとすれば必ずや同法第一一八条第二、三、四項の手続によらねばならないに拘らず本件指名推選方法採用決議はこれらの条項の適用を潜脱する目的で為されたものであるから法律上当然無効であり、従つて該決議に基く本件指名推選行為も亦当然無効である。
五、仮に本件条例が適法に告示施行されたとしても従前の「総務」「土木」「農地」「教育」各部門は依然改変されず、従つて従前の右各部門の委員及び正副委員長の地位は毫も影響を受けず、又従前の「民生、衛生、労働」部門は「民生」「衛生」「労働」三部門に「経済、商工、水産」部門は「経済」「商工」「水産」三部門に各分割されたけれども分割前の部門の委員及び正副委員長は分割後の三部門の中の孰れか一部門の委員及び正副委員長として残留するものといわねばならないから、そうでないことを前提とする本件指名推選方法採用決議及びこれによる指名推選行為は何れも違法無効である。
六、以上の諸点は何れも理由がないとしても本件指名推選方法採用決議及び指名推選行為は次のような事情に基くもので権利の濫用である。即ち政友クラブは従来、県政運営上重要な「総務」「土木」「農地」等の部門の委員及び正副委員長が全部または大部分反対派で独占せられている現状に慊らず、議長と通謀の上彼我の立場を取換えようと画策し、本件条例を議会に発議提案し数を頼んで反対派に質疑、討論、審議等の機会を与えず非難囂々裡に一挙に表決成立させ次いで又反対派の議会活動を当初から封じ去り。その正当な最少限度の権利行使、職域奉公をすら許さず一挙に指名推選方法採用決議及び指名推選行為に出、所期の目的を遂げたもので少くともかような指名推選行為は民主議会を否認し、議員の審議権を抹殺し憲法を蹂躙し、時代に逆行し本来の指名推選権の範囲を著しく逸脱し法律上当然無効である。仮に無効でないとしても少くとも取消し得べき行為である。そこで申立人等は曩に当裁判所にこの指名推選行為の無効確認等請求訴訟を提起し同事件は目下当裁判所に繋属審理中であるが判決の確定を俟つにおいては到底尋常の手段では回復乃至補償不能の禍害を被ることは極めて明白であるから、こゝに別紙第一表記載の人々の委員及び正副委員長の職務の執行を停止し従前通り同第二表記載の人々に委員及び正副委員長の職務の執行をさせる趣旨の決定を求めるため本申立に及ぶというにある。
よつて先ず被申立人一〇部門常任委員会に対する本件申立の当否について考えるに一般に普通地方公共団体の議会がその法律上認められた権限又はその命ぜられた事務につきその団体の長又は構成員との間に紛議を釀したときは裁判上自己の名において訟え、若しくは訴えられる権能を有することは地方自治法全般の精神に照し毫も疑のない所で同法第一一八条第五項、第一七六条第五項等の「議会を被告として裁判所に出訴することができる」という条項は偶々この精神を具体的事例につき露顕したものに外ならず、即ち同法全体に通ずる根本法理がこゝにその片鱗を現わしたものといわざるを得ない。がしかし議会の部門別常任委員会の如きは成程その使命こそ各種部門事務、予算案、条例案、その他の議案及び請願陳情等を審査するにあつていわば議会の縮図を形成し議会活動の成否は一つに繋つて委員会の運営如何にあることは勿論であるけれどももと、議会の一分肢、一部分、一機関にとどまり成法上議会と離れてこれと別個に訴訟乃至申立主体となり得る権能(即ち訴訟上自己の名において訴え若しくは申立て又は訴えられる若しくは申立てられる権義)を有するものではない。立法者が委員会にまでかような権能を附与しなかつた一半の理由は、既に、議会にかような権能を与えている以上更にその手足に過ぎない個々の委員会にまでもこれを与える必要は毫末も存しないばかりでなく一箇の組織体をその活動部面に応じて細分しその各細胞に一箇宛の訴訟上の権利能力を与えるときは無用の混乱矛盾を釀し出し議会の円滑自在な活動を阻害することは極めて明瞭であるからこれらの弊害を未然に防止しなければならないと思念したからに外ならない。
よつて本件申立中被申立人一〇部門に対する部分は到底理由がないものとしてこれを棄却しなければならない。
次に、被申立人青森県議会に対する本件申立の当否について一言するに申立人等主張の訴の提起に基き当裁判所が審理の末本件指名推選行為は政友クラブ所属議員及び議長のたび重なる非民主的議会運営の末釀された指名推選権の濫用に外ならないから本来取消の運命を免れないところのものではあるが今これを取消すときは国利民福の保持増進に尠からざる蹉跌を来す虞れがあるから差当りこれを差控えた方が穏当であろうという理由で申立人等の請求は竟に敗訴の運命を免れなかつたことは当裁判所に洵に顕著な事実でありそして以上のように申立人等が本案訴訟で敗訴した以上、その権利保全を理由として行政事件訴訟特例法第一〇条を援いて本件新委員及び正副委員長の職務の執行停止を求めることができないことは論を俟たない所であるから申立人等の申立を採用するに由がない。
次に、同条に所謂「行政庁の処分の執行停止」は処分の執行そのものばかりではなく処分の効力の発生並びに該発生以後の一切の手続及びこれら個々の手続に基く執行をも包含することは同条が無用の手続及び混乱を未然に防遏するため設けられた律意に徴し一点疑義を挿む余地が存しないところ、同条は裁判所に更に積極的に公職につき仮の地位を定めることまでをも許容したものと解してはならないことも亦同条末項が「行政庁の処分については仮処分に関する民事訴訟法の規定はこれを適用しない」旨規定している趣旨から容易に窺うことができる。そして本件において旧委員及び正副委員長を解職する趣旨の改正条例が有効に成立施行されたことは当裁判所昭和二五年(行)第四号指名推選無効確認等請求事件の審理判決の結果当裁判所に顕著な事実であるから、右条例の施行により旧委員及び正副委員長はその地位を去つたものというの外なく、従つて今、当裁判所がこれら旧役員に本案判決が確定するまでその役職に止まり従前通り活動しても差支えはない旨の仮の措置を講じるときは、裁判所が行政処分につき積極的に干渉して仮の地位を定める結果を招来し法律が三権分立の建前から行政処分につき民事訴訟法上の仮処分を禁じた趣意に背戻するにいたるであろう。よつて本件申立中旧役職員の地位の喪失防止を求める部分は竟に違法として排斥を免れない。
最後に申立費用の負担義務如何について考察するに叙上のように申立人等が敗訴するに至つた理由は本来申立人等の行政処分取消の請求が理由がなかつた点に存せず、理由がないわけではないが申立人等の請求をそのまゝ認容するときは国利民福を図る上に若干差し障りを来す虞れがあるという点に在るに過ぎないから、申立人等は訴訟又はその他の裁判手続上その他の点においてまで不利益を被る謂われは毫も存しない。そして申立人等が前記取消請求訴訟において公共の福祉を阻害するという一点を除き本来所期の成果を挙げ得る立場にあつたものとする以上被申立人議会を相手方として本件指名推選の効力の発生及びこれに基く一切の手続乃至執行の停止の申立をするは洵にその所でその間毫も違法不当の廉がないから本件手続費用中、申立人等と被申立人議会との間に生じた部分は行政事件訴訟特例法第一一条第三項の趣旨に則り、被申立人議会にこれを負担させるを相当とする。
ところで本件手続費用中申立人等と被申立人常任委員会との間に生じた部分如何について観ずるに本件総手続費用中被申立人議会に全然関係がなく申立人等と被申立人委員会との間だけで生じた部分というようなものは一件記録を精査してみても絶えて発見することができずこの総費用中何れの部分を採つてみても総て被申立人議会審訊手続において生じた費用に外ならないから本件において被申立人常任委員会が訴訟乃至申立人手続の主体たる適格を有すると否とに拘らず、本件手続費用は全部被申立人議会にこれを負担させるを妥当とする。
よつて主文のように決定する。
(裁判官 中川毅 工藤健作 高沢新七)
(目録省略)